泣ぁけるぜ

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    クリント・イーストウッド作品で思い出すのは?と聞かれて
    『荒野の用心棒』と『ダーティ・ハリー』と『ルパン三世』と答えてしまう人はいるはずだ。
     
    つまり日本人にとってイーストウッドとは山田康雄のことだった時代があった。それもかなり長い間。少なくとも昭和のイーストウッドはもれなく山田康雄だった。それが証拠に昭和59年公開の『ダーティ・ハリー4』の時に初めて映画館でイーストウッドの生声を聴いた時の違和感たるや、
    「なんでハリー・キャラハンが英語で喋ってんだよ!」と理不尽な怒りを覚えるほどだった。
    そして1995年に山田氏が鬼籍に入ってから、それに併せるようにイーストウッドは山田的なイーストウッド作品に出なかったり作らなかったりしていたような気がする。ケビン・コスナー演じる幼児誘拐犯を追う警察署長役の監督作品『パーフェクト・ワールド』がラスト・ヤスオ・イーストウッド【注:ビデオ版。TV版は黒沢年男】。あの悪名高い『マディソン群の橋』では夏八木勲が、そして『目撃』ではビデオで銭形のとっつぁんこと納谷悟朗、TVではオレイチオシの野沢那智(TV版『スペース・カウボーイ』最高!)、今は瑳川哲郎(大江戸捜査網でTAC隊長)、小林清志(次元でコバーン)、樋浦勉あたりが束になってイーストウッドを担当している。
    オレ自身大人になってからはほとんど劇場で観ているけど、最初は字幕を頭の中で山田音声に変換しながら観る作業をしたものだった。30代以上は当然みんなやってる作業だろう。いきなり『マディソン群』を見せられた日にゃ「こんなものは(リチャード)ギア様にでもやらせときゃいいのに。」と思ってしまいその作業を放棄させられたこともあったが。ルパン三世も栗田貫一になって久しい昨今ではその作業をやってる人はどのくらいいるだろう。オレは『トゥルー・クライム』あたりから止めた。そうする必要がないくらいイーストウッドが「康雄ばなれ」を進行させていると感じたからだ。『スペース・カウボーイ』は割とまた近づいた感じがしたけど、TV版の野沢氏が4作目にして完全にイーストウッドを自分のものとして掴んだ素晴らしい演技を見せて(聴かせて)くれたその印象の方が勝ってしまう。
    『ミリオンダラー・ベイビー』に至っては、確かに『許されざる者』や『ダーティ・ハリー3』を想起させる部分もあったが全体を通して漂う空気が<演じる映画監督>としてのイーストウッドのものだったので、山田氏はおろか日本人の声が頭の中に響くことはなかった。

    そこへきての『グラン・トリノ』である(なんだよ、この前置きの長さは...)。
    誰がなんと言おうとこれは、あのクソ忌々しい「ハリウッドの生きる伝説」だの「映画の神様」だのの取ってつけたような形容詞ではなく文句なしの山田康雄印イーストウッド映画である。

    朝鮮戦争の従軍経験を持つ元自動車工ウォルト・コワルスキーは、妻に先立たれ、愛車“グラン・トリノ”や愛犬と孤独に暮らすだけの日々を送っていた。そんな彼の隣家にモン族の少年タオの一家が越してくる。ある事件をきっかけにして心を通わせ始めたウォルトとタオだったが、タオを仲間に引き入れようとする不良グループが2人の関係を脅かし始め……

    「抜けよ。相手になるぜ。」(Go ahead. Make my day)
     
    このウォルトという男、雑誌やパンフでも「偏屈な頑固爺イ」という論調だったんだけど、オレは亡き妻の葬儀で始まる最初からそんなに偏屈という印象は受けなかった。ザ・昔気質っていう。だってそんなに交流がなかったとはいえ、己の愛妻の葬式でヘソピアスチラつかせながらケータイいじってるようなクソガキなんか見たら、それが我が孫ならなおさらそりゃ終始歯を食いしばって「ジーザス...」って呟きたくもなるよ。この「ジーザス...」に『ダーティ・ハリー』でのファーストシーン、凶悪犯スコーピオンからの脅迫状を発見した時のハリーの呟きを思い出した人もいるだろう。勿論山田ヴォイス変換で「くそぅ...っ」と聴こえたことだろう。朝鮮戦争で地獄を見せられた東洋人に隣近所囲まれたら「この米喰い虫が...」と吐き捨てたくもなるでしょうよ。アメリカ人から見りゃベトナム人も朝鮮人も日本人だって変わりゃしないでしょうよ。しかも我が息子はその米喰い虫ジャップの自動車会社に雇われてるとなりゃ、ねえ。自分は誇り高きアメ車のフォード社で仕事を全うしたっていうのに。まさに「泣けるぜ...。」だ。教会の神父はやっとチンポに毛が生えましたって感じの小僧だし、そんな小僧に気安く「ウォルト!」なんて呼ばれた日にゃ、「コワルスキーさんと呼べ!このばあさまのお話し相手しか取り得のない童貞ヤロウ!!」と怒鳴りたくもなる。やっぱりザ・昔気質である。昔気質で罵詈雑言を撒き散らしながら我が道を行くどこかで見たことのあるイーストウッド、まさに山田印だ。こっちが無理にシャットアウトしていても自然と山田氏の声が聴こえてくる、こんな映画がまた観れるとは思わなかった。
    タオの姉スーがボーイフレンドと一緒にブラックチンピラに絡まれる場面で、B-BOY気取りの白人ボーイフレンドが付け焼刃のブラザー感でご機嫌とろうとして逆にすごまれちゃって泣きそうになっているところに車をよこづけにしたウォルトが窓開けた時の
    「おい!クロ!!」と直球な蔑視発言も山田節だ。さしずめ「よぉクロンボ!!」かな。
    この時に車から降りたウォルトが懐から指鉄砲を出すんだけど、あの動作なんてまんまハリー・キャラハンでしょ。


    結構、テーマ的にはここ数本の監督作品に並んで重たいものだとは思うんだけど、特にウォルトがモン族の家族に関わるようになってからの日常がユーモラスに描かれていたせいもあってその重たさを和らげていたようにも感じた。

    特に、タオに男の会話を教えると言って連れて行った行きつけの床屋での、イタリア系マスターを巻き込んでの3人のやりとりはまるで『欽ちゃんのドーンと行ってみよう!』みたいだったもの。イーストウッドが欽ちゃんで、タオが前川清、マスターはさしずめ車だん吉といったところだ。

                                                                                   「はい聞いちゃダメ。」

    タオのおばあちゃんもいい味出してた。ウォルトとお互いの家のテラスで睨み合いしながらの台詞なんか爆笑ものだった。

    最初はいやいやつき合わされていたけど、ウォルトにとってタオ(そしてスー)はかけがえの無い存在になっていって最後には文字通り身体を張って2人を護ることになる。
    この体の張り方が凄いんだけど、物語を追っていけば当然の帰結なんだ。それはわかってるんだけど...わかってるんだけど、心のどこかであのクライマックスに荒野の用心棒を期待してしまう自分がいた。その前に淡々と「発つ鳥あとを濁さず」作業をこなす彼を観ているのに、だ。で、察しの着いた彼の聖者な決着を見届けて泣いちゃった。分かってるのに、まさに「泣けるぜ。」である。ミリオンダラーベイビーの時も「モ・クシュラ」の謎が解けたところで泣いたし。あの時のフランキーや、今回のウォルトを『ダーティ・ハリー2』の頃のハリーが観たらこう言うだろう。「フッ...。ガラにもないことやるからこーなる。」

    でもその次の場面ではある意味『夕陽のガンマン』にも匹敵する痛快さを見せてくれる。タオにグラン・トリノを遺す件だ。あの時のヘソピアスの腐れ孫ときたら...ザマアミロ!!
    そして最後の最後、それまで1度も走る事のなかったグラン・トリノはタオと犬のデイジーを乗せ、緩やかなカーブを眺めのいい未来に向って走っていく。地の果てから湧き出でるようなウォルトの歌声に包まれながら...。心地いい余韻を残す素晴らしいエンディングだ。正式に発表したわけではなくあくまで仄めかしのレベルで言った俳優引退作というのもこのエンディングだと頷かざるを得ないかもしれない。これ以上のイーストウッド出演作のエンディングは想像つかないもの。

    ただ、オレ個人的にはイーストウッドはスター映画の人だからやっぱりスターが観れなくなるのは寂しいな。正直クリント・イーストウッドとビートたけしは画面に映りさえすればオッケーだから。たとえどうしようもない駄作だったとしても。

    そういえば、この映画観ててなんとなくたけちゃんの『BROTHER』に似てるなと思った。血の繋がった家族よりも濃い絆で結ばれた親愛なる友人の為に敢えて死地に赴くっていうところとか、死に往くものの日常の他愛の無い可笑しさとか(『ソナチネ』にも言える)、そして最後に思いも寄らないプレゼント遺して泣かせたり、車が走るエンディングとか。
    夢の競演

    猫背気味の背中で語るスターな男2人。
    スクリーンで見れなくなったらそれこそ
    「泣ぁけるぜ。」

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      • 2017.07.23 Sunday
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